仙台高等裁判所 昭和32年(う)366号 判決 1958年3月13日
控訴人 検察官 北原外志夫
検察官 海沢広江
被告人 岩井広志 外三名
主文
被告人工藤、同船越に対する本件各控訴を棄却する。
原判決中被告人岩井、同平野に関する部分を破棄する。
被告人岩井を懲役三年に、同平野を懲役二年に処する。
原審における未決勾留日数中被告人岩井に対し一二〇日、被告人平野に対し一〇〇日を各本刑に算入する。原審における訴訟費用中証人佐藤正美に支給した分は被告人岩井の負担、当審における訴訟費用は、これを四分し、その二を被告人岩井、同平野の平等負担とする。
理由
本件控訴趣意は、盛岡地方検察庁検察官検事北原外志夫名義の控訴趣意書の記載と同一であるから、ここに引用する。
第一、控訴趣意二の(一)(2) に対する判断。
原判決は、公訴事実第一については、被告人岩井、同平野の共犯関係を否定し、各自の単独犯行と被告人平野の-被告人岩井に対する-幇助が成立するとした。原判決挙示の渡辺栄の検察官に対する昭和三一年九月二八日附供述調書(記録一六一丁)、被告人岩井、同平野、同船越の各検察官に対する供述調書によれば、被告人岩井、同平野の両名が、被害者山口ミヨを強姦すべく共謀した事実はなくかつ、被告人平野の原判示第二の(二)の犯行の際には、被告人岩井は既に現場を去つて、全然関与しなかつたことが明らかであるから、原判決が、被告人岩井の原判示第一の所為と被告人平野の原判示第二の(二)の所為とを共犯とはせず、後者を被告人平野の単独犯行としたのは正当である。しかしながら、被告人平野の被告人岩井に対する原判示第二の(一)の幇助の成否については疑点がある。即ち、原判決の認定した被告人平野の第二の(一)の事実というのは「被告人平野は-中略-前記稗畑に馳せつけたところ、当時被告人岩井は、連行したミヨを稗束の側に立たせていたが、間もなく同被告人が同女を稗束の上に仰向けに押し倒し、側に来た被告人平野や、渡辺栄等に対して「押えてろや」と声を掛けて助勢を求めたので、既に、被告人岩井の行動から、同被告人がまさにミヨを姦淫しようとしていることを熟知しながら、その意を受け、両手を以て右岩井に乗りかかられて危難を避けようとして抵抗を続けている同女の左大腿部及び左膝の下附近を押えた-後略」というのであつて、この事実は、原判決挙示の証拠によつて、優に認定し得る。この事実によれば、被告人岩井が被害者山口ミヨを強姦すべく、既に、その実行行為に着手したのに対し、被告人平野は、自身ではミヨを姦淫する意思はなかつたが、被告人岩井の姦淫を遂げさせるために、抵抗するミヨの左大腿部及び左膝の下辺を圧えつけて、その反抗を抑圧したということになる。ところで、刑法六二条にいわゆる幇助とは、犯罪の実行行為以外の助言、助力等によつて、正犯の犯罪の実行を容易ならしめることをいうのであつて、さらに進んで実行行為そのものを分担した場合には、それが専ら他人の犯罪を幇助する意思で為されたとしても、既に従犯ではなく、共同正犯を以て論ずべきものである。本件においても、被告人岩井は、自身の力では-原判示第一のとおり-ミヨを抑えつけることが容易でなかつたため、それまで傍観していた被告人平野その他に声をかけて助力を求め、なおも必死に抵抗するミヨの手足を押さえ、頭部、顔面を上衣で覆わせるなどして、ようやくミヨの反抗を抑圧したことは、証拠上明白であるから、この場合、被告人平野が、被告人岩井の求めに応じて、ミヨの左大腿部、左膝の下辺を押えつけたのは、とりもなおさずミヨの反抗を抑圧する行為で、強姦罪の実行行為中重要部分を担当したものに外ならない。しかも、被告人岩井の求めに応じたもので、両者間に意思の連絡のあつたことも、また、明白であるから、被告人平野は被告人岩井の強姦の所為に共同加功したもので、共同正犯の責任を免れることはできない。従つて、原判決が、原判示第一の所為を被告人岩井の単独犯行とし、被告人平野の原判示第二の(一)の所為を幇助としたのは事実を誤認したもので、この誤りは、原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点において、原判決中被告人岩井、同平野に関する部分は破棄を免れない。論旨は、この限度において理由がある。
第二、控訴趣意の二の(一)(1) に対する判断。
本件公訴事実後段によれば、「右第一ないし第三の強姦に際し、右ミヨは、全治三週間を要する左第六肋骨頸部亀裂並びに全治一週間を要する外陰部裂創の傷害を負つたのであつて、右頸部亀裂は、被告人岩井の前記第一記載の暴行(原判示第一に相当)に因るか、又は、被告人船越の前記第三記載の暴行(原判示第四に相当)に因るか不明であり、且つ右外陰部裂創は、被告人平野の前記第一記載の指を同女の陰部に入れた暴行(原判示第二の(二)に相当)に因るものか、又は被告人工藤の前記第二記載の同様の暴行(原判示第三に相当)に因るものか不明である」ということで、刑法二〇七条を適用して、全被告人を強姦致傷罪で処断することを請求した。これに対し、原判決は、山口ミヨの傷害が、いずれの被告人の犯行によつて生じたものであるかは不明であることを肯認したが、右法条は、単純傷害に関する規定で、強姦致傷罪には適用がないとして、同罪の成立を否定し、被告人等をそれぞれ強姦罪で処断した。ところが、論旨は、山口ミヨの傷害がいずれの被告人の所為であるかは、証拠上確定し得るとして、原判決の事実誤認を主張する。即ち、検察官は、公訴事実においては、それが不明であるとしながら、論旨においては、全く反対に証拠上明確であると主張し、しかも引用したのは、いずれも、既に、公訴提起の資料とした被告人その他の関係人の捜査官に対する供述調害のみであるから、両者の矛盾撞着は蔽うべくもなく、控訴趣意としても、必らずしも相当とはいい得ないがこの点は後に触れるとして、以下論旨に対し検討を加える。
一、まず、被害者山口ミヨの傷害の部位、程度、成因をみるに、医師白井善之助は、ミヨが-昭和三一年九月一六日午後一〇時三〇分頃-姦淫された翌々日同女を診察しているが、同医師の作成した診断書によれば、ミヨの傷害の部位、程度は、一、左第六肋骨頸部亀裂……全治三週間、X線所見、左第六肋骨頸部上縁、第六胸推横突起より五糎左に亀裂を認む。一、外陰部裂創……外尿道口部は全般充血性、外尿道口下部尿道隆起部両側に〇・五糎の弁状裂創を認め、他腟入口の二、三ケ所に小裂創を認むというのである。これら傷害の成因については、同医師は、検察官に対する昭和三一年一〇月四日附供述調書中で、その所見を述べ、左第六肋骨頸部亀裂は、その部分だけ強くたたかれた場合には普通骨折となつて亀裂は生じない。亀裂は、相当強く急激に押さえつけられた場合に生ずるもので激痛を伴うものでないが、相当期間経過後その辺に苦しいような鈍痛を感ずるに至る。かような点からみて、山口ミヨの左肋骨頸部の亀裂は、男の人に、最初強く押し倒された際生じたと考える。次に、外陰部裂創は、指で押えると血がにじみ出る程度で、一両日前にできた傷とみられるがいずれも爪のような堅いものでできたので陰茎を入れただけでは、かような傷は生じないと供述している。以上の証拠によれば、山口ミヨの受傷のうち、左第六肋骨頸部亀裂はこの部分を急激に強圧されたため生じたものであり、外陰部裂創は-山口ミヨの捜査官に対する各供述調書をも参照すれば-陰茎を挿入した際の傷ではなく、手指の爪跡とみなければならないことは所論のとおりである。そこで、これらの傷害が、いずれの被告人の所為によるものがが問題となる。
1、左第六肋骨頸部亀裂(以下亀裂と略称)について。
記録によれば、右亀裂の原因を与えたと目される者は、被告人岩井同船越の両名で、爾余の被告人は関係がない。即ち、山口ミヨの捜査官に対する各供述調書、原審並びに当審における証言、被告人岩井の検察官に対する各供述調書、被告人平野の検察官に対する昭和三一年九月二四日附供述調書を綜合すれば、被告人岩井は、ミヨを姦淫するに当り、ミヨの前胸部辺を両手で強く押して畑の稗束の上に仰向けに倒した後さらにミヨの反抗を抑えるため前胸部を圧迫したことが明らかである(原判示第一参照)。また山口ミヨの右各供述調書及び証言、被告人船越の司法警察員に対する昭和三一年九月一九日附供述調書、検察官に対する各供述調書によれば、被告人船越もまた、山口ミヨを姦淫すべく、立つているミヨの腰に前から両手を廻して、畑の中の稗束もろとも重つて倒れたが、その際下になつたミヨは、同被告人の体で前胸部辺を圧迫されたことが認められる(原判示第四参照)。この両者を比較して、全般的な犯行状況としては、被告人岩井の場合が、暴行の程度及び量、周囲の環境からミヨに与えた衝撃が、被告人船越の場合より強度であつたことは否めない。さらに、山口ミヨは、検察官に対する昭和三一年一〇月二日附供述調書中で「背中の骨折は、岩井に関係される直前稗束に強く押し倒されたとき、ぶつつけられるように、どしんと来たのでそのときできたものと思う」旨供述し、原審証人としては「あるいは、最初岩井にぶつつけられるように前胸部辺を両手で押されたときついたのかもしれません」と述べていることは所論のとおりである。しかしながら、山口ミヨは、原審証人としても、また、当審証人としても、いずれの場合の圧迫が、より強力であつたのかは判然としないし、いずれの場合にも、特に痛みを感じたわけではなく、白井医師の診察を受けて指圧された際に始めてその部分が痛いと感じたと供述している。してみれば、山口ミヨが、あるいは、被告人岩井の暴行による亀裂かもしれないというのは、供述自体からも窺われるように、確たる根拠があるのではなく、一応そのように考えられるという推測に過ぎない。もつとも、当夜山口ミヨは、最初に被告人岩井から暴行を受け、しかも、そのとき受けた衝撃が、その後の被告人船越の場合より強度であつたことは、前述のとおりであるから、この印象から帰納して、被告人岩井の与えた亀裂かもしれないと供述したことは、全然いわれのない推測とばかりはいいきれない節はある。しかしながら、亀裂を生じた際に、特に、それと意識したというのであれば格別、そうではなく、後に医師の診察の際始めて判明したというのであるから、この推測から直ちに被告人岩井の所為と断定することは困難である。一方所論引用の白井医師の検察官に対する供述にしても、山口ミヨが男の人に強く最初押し倒された際できたものと思うというのであるが、これは明らかに臨床所見だけではない。しかも、同供述調書の作成日附をくつて事件捜査の経過を参照すれば、白井医師は、事案の詳細を的確に把握せず、その概略だけを頭に入れて供述したことが明らかであるから、最初押し倒されたときにできたという供述は、必らずしも信用し得るものではない。のみならず、一般に最初の圧力によつて、ある程度の異変を来たした箇所に、さらに第二の圧力が加わることによつて、始めてそれが破壊されることのあるのは、必らずしも稀な現象ではないのであるから、被告人岩井の暴行に、被告人船越の暴行が競合して生じた亀裂でないとも、また保証し難い。以上を綜合して考察すれば、結局山口ミヨの亀裂が、被告人岩井の所為とも、被告人船越の所為とも、これを明確にすることは困難といわなければならない。
2、外陰部裂創(以下裂創と略称)について。
右裂創に関係のあるのは、被告人平野、同工藤の両名だけで、爾余の被告人は関係がないことは争いがない。この点について、山口ミヨは、検察官に対する昭和三一年一〇月二日附供述調書中で、最初陰茎を入れられたときには、痛いとは思はなかつたが、二、三回目のときには指を入れられたので痛かつた。それで、頭の方にそり出るように体を動かした記憶があると述べ、当審の検証現場においても、ほぼ同趣旨の供述をくりかえしている。そして、被告人平野の捜査官に対する各供述調書殊に検察官に対する昭和三一年九月二四日、二九日附各供述調書によれば、同被告人は-原判示第二の(二)のとおり-被告人岩井の次に山口ミヨを姦淫しようとして、左手人差指を第一関節辺まで陰部に挿入し、かきまわすようにしたのであるが、始め指を入れるときミヨが両足を同被告人の足にかけるようにした。このときちよつと動いただけであるというのである。この供述と前記山口ミヨの供述とを対比すれば、このときに、ミヨが痛みを感じたことは事実であるが、疼痛があつたからといつてそれが直ちに裂創となるとは断定し得ない。一方被告人工藤の捜査官に対する各供述調書殊に司法警察員に対する昭和三一年一〇月四日附供述調書によれば、同被告人は-原判示第三のとおり-被告人平野に次いで、三人目に山口ミヨを姦淫しようとし、その際左手中指、人差指を二本そろえて陰部に挿入し、二分間ぐらいかき廻すようにしたが、ミヨは気を失つたように為すがままにまかせていたということである。即ち、被告人平野の場合とは異り、ミヨは被告人工藤の所為に対しては、格別の反応も示さなかつたというのである。論旨は、以上の点をとらえて、ミヨの裂創は、被告人平野の前記所為によるもので、被告人工藤は関係がないと主張する。しかしながら白井医師作成の診断書によれば、山口ミヨの裂創というのは、一個だけではなく、尿道隆起部両側に弁状裂創があるほか、膣入口にも二、三の小裂傷があるというのであるから、全部が全部被告人平野の所為によつて生じたものとは断定し得ない。殊に、被告人平野の場合でも、ミヨが痛さのため体を動かしたのは、指を入れた瞬間だけでその後はさようなことはなかつたというのであるから、仮りに被告人平野の与えた裂創としてもその都度ミヨが激痛を感じたものではなく、換言すればミヨの意識しない裂創のあつたことが明白である。しかも、被告人平野は、食指を挿入しただけであるのに、被告人工藤は食指の外中指までも同時に挿入し、剰え二分間もかき廻すようにしたというのであるから、被告人平野の場合よりは多分に、ミヨの陰部に裂創を負わせる可能性が強度であつたといわなければならない。従つて、たとい、ミヨが被告人工藤の所為に対して、特に痛みを感じたとみられる態度を示さなかつたとしても、それだけで直ちに同被告人が、ミヨ裂創に関係がないと断定するのは誤りである。以上を綜合考察すれば、山口ミヨの裂創も、また、被告人平野の所為とも、被告人工藤の所為とも、これを明確にすることは困難といわなければならない。
被告人等の捜査官に対する供述調書記載の供述並びに原審及び当審における供述中以上の証拠に反する部分は、不合理な点が多くとうてい信用し得るものではない。その他記録を精査し、当審における事実取調の結果に徴しても、叙上の判断を覆えし、山口ミヨの傷害が、いずれの被告人の所為に基因するかを明らかにするに足るべき証拠は存しない。
二、論旨は、以上の点について、原判決には、審理不尽のかどがあると強く論難するが、捜査の過程において、既に、それが不明であるとして公訴を提起し、しかも、原審検察官から、これを明確にすべき証拠調の請求をした形跡すら全くない、換言すれば、検察官はその不明なことに満足していたことは極めて明白である。にもかかわらず、いまさら不明の責を原審の審理不尽に帰するが如きは、法の根底に流れる信義誠実の原則に背戻するもので、控訴の適否についてすら、深い疑いなきを得ない。ひるがえつて、原審の審理を検討するに、検察官より請求のあつた資料は、人証、書証、物証の区別なく、すべて適法な証拠調を為し、一方弁護人請求の人証も全部採用してその尋問を了しているのであるから、当事者は、いずれも、その主張、立証のすべてを尽していることが明らかである。しかも原審は、各証拠を検討した後、重要部分につき、各被告人を尋問して、供述を求めている。論旨は、原審が職権を以て各犯行現場を検証し、現場において各関係者の尋問を為さなかつたことを特に強調している。かような論旨の態度は、当事者主義の建前からも疑問ではあるが、この点は暫くおくとして、現場の模様は、司法警察員作成の実況見分調書、検察官作成の検証調書の各記載によつても、一応は知り得るのであり、各関係者の行動にしても、各書証の記載と供述とを仔細に検討して、一般経験法則に照して判断すれば、必らずしも、これを明らかにし得ないわけではない。殊に、検察官は、当初から山口ミヨの受傷と各被告人の所為との因果関係は不明であるとし、それで満足していたのであるから、原審が、さらに進んでこれを明確にするため職権を以て格別の審理を為さなかつたとしても、これを目して審理不尽ということはできない。のみならず、当審における事実取調の結果に徴しても、原判決が不明とした点を明らかにすることができなかつたのであるから、この点からみても、原判決が審理不尽の結果採証の法則に違反し事実を誤認したものではないことが明らかである。
三、以上のように、山口ミヨの傷害が、いずれの被告人の所為によるものかは、証拠上全く不明であり、しかも、原判示各犯行について、被告人等に共謀関係のないことは、記録上明白であるから-刑法二〇七条の適用は別論として-いずれの被告人をも強姦致傷罪として処断すべきものではない。論旨は、理由がない。
第三、控訴趣意二の(一)(3) について。
いわゆる同時犯に関する刑法二〇七条は、法文上明らかなとおり、傷害の結果またはその軽重について法律上の推定をなすのであるから、個人責任の原則に反し、刑法上重大な特例である。従つて、これを厳格に解釈し、みだりに外形上類似の犯罪にまで拡張適用すべきものではない。強姦罪は、本来性道徳に関する犯罪で、それが致傷の結果を伴う場合には、強姦致傷罪として刑を加重するに過ぎないのであるから、これと全く保護法益を異にする暴行、傷害に関する特例規定である刑法二〇七条の適用はないと解すべきである。かく解することによつて、所論のように、刑の不均衡、犯罪捜査の困難を来たすことがあろうとも、右明文上の重大な特例に加えて、さらに解釈上の特例を設けることは、罪刑法定主義の建前からも厳に慎まなければならない。従つて、原判決が、被告人等の原判示各所為に対して、右法条を適用せず、全被告人を強姦罪もしくは強姦未遂罪を以て処断したことは正しく、この点において所論法令の適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。
第四、控訴趣意二の(二)に対する判断。
被告人岩井、同平野については、後記自判の際に、自ら当裁判所の量刑が示されるから、ここでは、専ら被告人工藤、同船越の両名に対する原判決の量刑についてのみ判断する。記録によつて、同被告人等の年令、経歴、家庭の状況、犯行の性質、態様、被害状況、犯行後の事情など、いつさいの犯情を検討すれば、所論の各事情を全部参酌しても、原判決が、被告人両名を各懲役一年六月、三年間執行猶予に処したことは、軽きに失するとは認められない。論旨は理由がない。
よつて、被告人工藤、同船越に対する本件各控訴は、刑訴法三九六条によつて、いずれも棄却すべきものとし、原判決中被告人岩井同平野に関する部分は、同法三九七条一項、三八二条によつて破棄し、同法四〇〇条但書に従つて、さらに、当裁判所において、次のとおり判決する。
当裁判所の認定した被告人岩井、同平野に対する罪となるべき事実は、原判示第一及び第二の(一)を削除し、これに代えて第一、被告人岩井は、同日午後一〇時三〇分頃、右中田前路上で、盆踊を見物中の山口ミヨ(当時一八才)が、若い男二人に、左右の手をとらえて連行されようとしているのを目撃するやこの者等に姦淫の意図のあることを察知してミヨを球うため近づいたところ、二人の者はこれに気づいて立ち去つた。ところが、被告人岩井は、独り路上に残されたミヨを見て、にわかに劣情をもよおし同女を強姦すべく決意し、やにわに、同女を背後から抱きかかえ逃げようとするのを後から押すようにして、同所から北方松尾村字寄木部落に通ずる村道を約一二〇メートル連行し、ここから、西側の稗の束がところどころに立ててある前記西根村大字田頭一三地割一三二番地の畑の中央辺まで連れ込んで、同所で同女の前胸部辺を押して稗束の上に仰向けに倒し、強いて姦淫しようとした。ところが、ミヨが必死に抵抗するため、自身の力では抑えつけることができなかつたので、折よく附近にいた被告人平野外二名に対し「押えてろや」と声をかけて助勢を求めたところ、これに応じて、被告人平野は、被告人岩井に強姦を遂げさせるために抵抗するミヨの左大腿部及び左膝の下辺を両手で押えつけて、被告人岩井と共同してミヨの反抗を抑圧し、よつて被告人岩井は、同女のズボン、ズロース等を脱がせた上その陰部に強いて陰茎を挿入して姦淫した
を挿入し、かつ、原判示第二の(二)を第二と訂正する外は、原判示事実と同一であるから、ここに引用する。
右事実に対する証拠は、原判決挙示の証拠の標目「(2) 判示第一及び第二の(一)の事実は」とあるを「(2) 判示第一の事実は」と、「(3) 判示第二の(二)の事実は」とあるを「(3) 判示第二の事実は」と各訂正する外は、原判決挙示の(1) ないし(3) の証拠と同一であるから、全部ここに引用する。
法律に照すに、被告人岩井、同平野の判示第一の所為は、刑法一七七条前段、六〇条に該当するので、所定の刑期の範囲内で、被告人岩井を懲役三年に処する。被告人平野の判示第二の所為は、同法一七九条、一七八条後段、一七七条前段に該当するが、同被告人の以上第一、第二の所為は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文一〇条、一四条を適用して、重い後者の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役二年に処する。原審における未決勾留日数は、刑法二一条を適用して、被告人岩井に対しては一二〇日、被告人平野に対しては一〇〇日を各本刑に算入する。原審並びに当審における訴訟費用の負担については、刑訴法一八一条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤勝雄 裁判官 有路不二男 裁判官 杉本正雄)